この本を読んでから、インドに対するイメージが大きく変化した。カースト制度については、世界史の授業で学んだため、過去のものだと思っていたが、意外にもそのようではないことが分かった。わたしがこの本を読んで特に驚いたことを、2つのキーワードをもとに、その内容と感想を論ずる。
- 名誉殺人
とあるインドの女子大生のお話。彼女は、カウサリヤ。同じ大学に通うシャンカールに恋心を抱かれていた。次第に話していくうちに、彼女は彼から尊厳とリスペクトを感じるようになり、惹かれていく。ある時、家族からシャンカールのカーストについて聞かれた。家族は彼が不可触民であったことが判明すると、すぐに彼女を同じカーストの男性と結婚させようとした。二人は駆け落ちし、離れた場所で結婚式を挙げた。しかし、家族からの攻撃はやまず、次第にエスカレートしていった。ある日、二人は街に出かけた。買い物を終えて歩いていた二人は、突然、バイクに乗った五人の男たちに襲われた。男たちは二人を地面にたたきつけると、ナイフで切りつけ始める。二人は病院に運ばれ、シャンカールは死亡、カウサリヤは脳に重傷を負った。のちに、二人を襲った男たちは、家族が雇ったチンピラと判明したのだった。
このような事件は、名誉殺人と呼ばれる。筆者は、インドのある特定の地域に名誉殺人が多いことに疑問を抱き、現地調査を始めた。筆者を出迎えてくれたのは、現地のNGOの代表、カティール。彼の話によれば、同じような事件は各地で起こっており、このような事件に名前を付け、メディアの注目を集めたのが、彼であった。実は、インドでは家族の名誉を守るために、低カーストの男に嫁いだ娘を殺す事件が少なくない。
- 持参金殺人
インドでは、深刻な性差別が存在している。特に「持参金制度」は、女性の人権を著しく侵害する悪習である。この制度では、女性が結婚する際に、女性側の家族が男性側に現金や金銀などの財産を提供することが求められる。持参金の額は、男性のカースト、教育水準、職業などによって決定される。
持参金が期待された額に達しない場合、女性は義理の家族から嫌がらせや暴力を受ける。これにより、離婚後に女性が殺害される「持参金殺人」が発生し、社会問題として大きく取り上げられた。北インドでは、女性が「商品」として売買される事例も確認されており、彼女たちは劣悪な待遇を受けている。
私は、このような事件が直近のインドで起こっていることに驚いた。特に顕著なことは、インドのカーストの習慣は、強く残っていること。そして、そのカーストは、自分の娘までをも殺してしまうほどの恐ろしく強大な力を有しているということ。
インドでは、まだまだ表に出ていない事件があるのかもしれない。カーストに基づいた社会から、急発展を遂げたインド。IT産業が盛んだと言われているが、それはほんの一部なのかもしれない。まだまだ私たちの知らないインドはそこにあって、私たちの見えないところで今もなお、不平等で、差別的な扱いを受け続けている人たちがいる。
私は、できる限り多くの人が豊かで充実した日々が送れることを願っている。世の中には様々な考え方があるが、上記の考えが反映された考え方を、私は好む。きっとそこには、自分の現状を維持するために、その他多数を蔑ろにする人たちもいるだろう。今後、どのようにして自分の利益と他者の利益を両立することができるのか、私たちは考え続けなければならない。